2009年07月12日

詩『朝そめて』

朝焼ける空

桜の散る川辺で

空はすこしずつ白み行き

川下りの舟で僕等は川をゆっくりと溯《のぼ》る

あの夜雨の中二人で開けた

錆びたドアの軋みを忘れるかのように

長い薄闇の空の下を流れて

夜はその尾を引いていく

朝茜の光を受けて 君の頬が赤らむ

僕は舟の櫂をゆっくりと動かし

毛布をくるみ舟の先でそれを見る君は

出そうになったくしゃみを途中でとめて

明るむ空を見上げる

行く手の空を分ける川橋を望みながら

道路の幹線表示が 静かな空に姿を表す

川沿いのビルの部屋に明かりがつき

泣きつかれて睡っていた小鳥がさえずりはじめる

誘われるように微かな風の感触が頬に触れる

日はその紅い燐片を山縁からのぞかせはじめ

日の光を受けて僕の肌を流れる血がわずかにぬくむ

僕の漕ぎ手をただ包んで

緩やかな水面と川の流れは

僕らとこの街の行く先をしずかにささやく

■(2009.7.2)



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2009年07月02日

詩『Magical Lady』

私はCDショップの新人店員
受け持ちの鬼先輩とコンビを組んで
今はカウンター担当をやっている
交代で店内を見回しては整理整頓
いつでもきれいにしてなくちゃね
ああ、先輩みたいにテキパキ仕事できるようになりたいな

♯♯♯

後ろのラックの中のケースを並べていると
天井のスピーカーからの重低音に誘われて
カウンターの奥のお客様達へ視線が向かう

ヘッドフォンを耳に商品を眺めるあの人も
棚のCDをめくる小学生たちも
ギターを背中にかけた入り口のあの子も
白髪まじりの老紳士の方も
みな、音楽を愛する人たち

カウンターにやってくるお客様には
営業スマイルでおもてなし
商品を買って
カウンターからさっていくお客様には
必ずウィンク

鬼先輩「ちょっと、……あんた、なにやってんの」

ヴィジュアル系のスターの彼も
中央の棚に輝かしく
秘かに好きなアメリカン・ブルースも
向こうの棚に存在感をもって

このお店の棚には、宝物がいっぱい積み込まれてる
ああ、泥棒が来たらどうしよう!?
絶対にとっちめてやるわ!
……だけど勘違いしちゃいけないよ
店員だって所有《もって》るわけじゃないんだから
ほんとは仕事をほっぽいてでも
ひねもす聴き込みたいくらいなのにぃ

鬼先輩「……だから、仕事しろ(怒)」

お店にくるお客様には
やっぱりジャケ買いをおすすめ
心赴くままにケースをめくると
意外で素敵な出会いがあるかもしれない

レジ打ちが完了したCDは
われらがロゴが入った袋に入れて
「ありがとうございました!」

あ、ところでお客様
このDVDがお買い得となっておりますが
ぜひ今度手に取っていただい──
あいたっ、こんどは店長に怒られた
今日は休みのはずじゃなかった?
どこから拳がとんできた?


私の友達は本屋の店員
ともに夢を売るしごと
今でも時々お茶をかこんで話すけど
私たちの夢がお客様を幸せにできたら

そう、カウンター横の看板のスローガンは
はるか彼方へ輝いて

え、……先輩なんで笑ってるんですか?
きょうは仕事終わったら飲みにいくわよ
いえ、きょうは友達と約束があるので……
先輩が誘ったらつきあうのが礼儀ってものよ!
いたた、分かりましたよ、今から電話して断わ……
え? ほんと、バカにはかなわないわね
ってどういう意味ですか?

今日の終業時間まであと3時間
どれだけのCDがそれまでに売れるか
いろいろなことがあるこの御時世に
時代の波は分からないけど
私が働くのは
トラディショナルでモダンな
音楽の港
夢の港

■(09.6.10)

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